奄美大島における生態系保全のためのノネコ管理計画の検討会があったので、今日はそのレポの続きを書いていきます。
今日は「発生源対策の進捗とTNR事業との連携」についてです!
奄美大島のノネコ管理計画は「山にいる猫を捕獲する計画」それだけだと勘違いされやすいのですが、ノネコ発生源対策としてTNR事業もしているんですよね!
TNR以外にも飼い猫登録やマイクロチップ装着推進なども頑張っているので、是非島内外の方に知ってほしいです!
「奄美大島のノネコ管理計画で奄美も頑張ってるって話を聞いたことがあるけどどう頑張ってるの?」
「奄美大島の猫対策って今どんな感じなの?」
こんな疑問を持つ方のヒントにもなるかも?是非チェックしていってください!
発生源対策の進捗とTNR事業との連携
本記事では奄美大島のノネコ管理計画の検討会で報告された「発生源対策の進捗とTNR事業との連携」について、検討会配布資料を元にまとめています。
ラインナップはこちら↓
- 発生源対策の進捗状況
- ノラネコ確認個体数と本事業で捕獲されたTNR個体数の関係
- 本事業で捕獲されたTNR個体とTNR事業確認個体の照合
TNRされた猫と、山で捕獲されたTNRされた猫を照合……つまり、「山で耳カット(TNRをしたら耳カットされます)の猫が捕獲された!どこでTNRされた子か台帳を見て照合してみよう!」の結果がここでわかるわけですね。
これがわかると、ノラネコがどれくらい移動するのかも何となく見えてくるので、個人的にとっても興味深い話題です!
そういえば、2年前の検討会で台帳と照らし合わせたらどうかなんて話も出てきていた記憶があります。
猫の研究はまだまだ解明できていない部分も多いとのことですので、これは世界的に見ても重要な資料になるのでは!と、そういうワクワクもありますよー!ではみていきましょー。
TNRとはTrap(捕獲) Neuter(避妊去勢手術) Return(元の場所へ戻す)の取り組みのことです。
避妊去勢手術をほどこすので、猫をこれ以上増やさないための活動になります。
奄美市ではオスは右耳、メスは左耳をカットしています。
たまにTNR個体=地域猫と呼ぶ方もいらっしゃいますが、奄美大島では地域猫活動はしていないのでその点はご了承ください。
発生源対策の進捗状況
ノラネコTNR
奄美市 | 龍郷町 | 大和村 | 宇検村 | 瀬戸内町 | 合計 | |
---|---|---|---|---|---|---|
集落数 | 45 | 17 | 11 | 14 | 24 | 111 |
実施率 | 56% | 100% | 100% | 100% | 63% | 75% |
確認個体数 | 413 | 387 | 169 | 57 | 301 | 1,327 |
不妊化率 | 92% | 92% | 95% | 98% | 94% | 93% |
※2018年4月~2022年1月末までの結果
飼い猫登録
奄美市 | 龍郷町 | 大和村 | 宇検村 | 瀬戸内町 | 合計 | |
---|---|---|---|---|---|---|
登録数 | 2,115 | 386 | 67 | 98 | 448 | 3,114 |
完全室内飼養率 | 81% | 43% | 85% | 42% | 92% | 77% |
不妊化率 | 87% | 81% | 82% | 98% | 79% | 85% |
MC装着率 | 62% | 52% | 49% | 67% | 48% | 59% |
※2022年1月末まで(瀬戸内町は2022年3月2日時点)の結果
奄美大島ノネコ管理計画のTNR事業
- 奄美大島ねこ対策協議会(以下:協議会)
- 協議会実施のノラネコTNR事業は2019年6月から開始(2019年以前は自治体独自でTNR展開)
- 5市町村11集落を対象にノラネコのモニタリング・捕獲・不妊化手術・リリース
- 奄美市名瀬と瀬戸内町古仁屋の市街地は事業の対象地に含まずに、自治体独自のTNR実施
- 事業開始~2021年1月(2年8か月)に83集落(島内全集落実施率75%)でTNR実施
- 龍郷町と大和村・宇検村では全集落調査済み
- これまでのノラネコ確認個体数は1,327個体
- 不妊化数は1,234個体(不妊化率93%)/この中の445個体のノラネコがTNR事業で不妊化手術
- 不妊化率は市町村別で見ても、全自治体で90%以上の値
奄美大島の飼い猫の登録情報など
- 2020年度から各市町村の飼い猫の台帳整理を重点的に行っている
- 全体で3,114個体
- 完全室内飼養率77%
- 不妊化率85%
- マイクロチップ装着率59%
- 完全室内飼養率:瀬戸内町92%、奄美市と大和村80%台、その他自治体50%以下
- 不妊化率:宇検村は100%に近づいてきている、その他自治体も概ね80%以上
- マイクロチップ装着率:各自治体不妊化率より低い、全自治体で70%以下
ノラネコ確認個体数と本事業で捕獲されたTNR個体数の関係
捕獲作業地域 | TNR事業 ノラネコ確認個体数 | ノネコ事業 TNR個体の捕獲数 |
---|---|---|
瀬戸内 | 149+α | 17 |
網野子 | 58 | 9 |
篠川 | 173 | 5 |
赤房 | 25 | 1 |
湯湾岳 | 45 | 7 |
山間 | 44 | 4 |
三太郎 | 53 | 10 |
金作原 | 38+α | 5 |
小湊 | 108 | 10 |
合計 | – | 68 |
※「+α」はTNR未実施の集落と市街地のノラネコ個体数を示す
- ノラネコ確認個体数はTNR事業でTNRした集落ごとの個体数
- 捕獲作業地域ごとに整理
- 複数の捕獲作業地域に接してる集落は、接する全捕獲作業地域に含めて集計
- TNR未実施の集落・市街地を含んだ捕獲作業地域のノラネコ個体は「+α」と表示
TNR事業のノラネコ 1位:篠川173個体 2位:瀬戸内149個体 3位:小湊108個体 | ノネコ事業で捕獲されたTNR個体 1位:瀬戸内17個体 2位:三太郎10個体 2位:小湊10個体 |
- ノラネコ確認個体数が多い地域でTNR個体の捕獲数が多い!といった傾向はナシ
- 山へ行きやすい集落から山域へ続く道路があるか
- 集落や山の中の餌資源
ノラネコ個体数と捕獲されたTNR個体数の違いは様々な要因があると考えられる。
本事業で捕獲されたTNR個体とTNR事業確認個体の照合
No. | 性別 | ノネコ事業 捕獲作業地域 | TNR事業 TNR実施集落 | TNRから捕獲 までの日数 |
---|---|---|---|---|
1 | ♂ | 湯湾岳 | 志戸勘 | 906 |
2 | ♂ | 瀬戸内 | ||
3 | ♀ | 瀬戸内 | ||
4 | ♀ | 網野子 | ||
5 | ♂ | 網野子 | ||
6 | ♂ | 三太郎 | 西仲間 | 1,237 |
7 | ♀ | 瀬戸内 | ||
8 | ♂ | 網野子 | ||
9 | ♂ | 小湊 | ||
10 | ♂ | 篠川 | 石良 | 908 |
11 | ♀ | 湯湾岳 | ||
12 | ♂ | 小湊 | 城間 | 207 |
13 | ♂ | 篠川 | 石良 | 727 |
14 | ♂ | 三太郎 | 西仲間 | 1,505 |
15 | ♂ | 三太郎 | 見里 | 1,337 |
16 | ♀ | 赤房 | 役勝 | 31 |
17 | ♀ | 崎原 | 名瀬 | 1,995 |
18 | ♂ | 湯湾岳 | 田検 | 469 |
19 | ♀ | 山間 | 市 | 1,146 |
20 | ♂ | 篠川 | 石良 | 776 |
21 | ♀ | 崎原 | 名瀬 | 878 |
22 | ♂ | 崎原 | ||
23 | ♂ | 崎原 | ||
24 | ♀ | 湯湾岳 | 見里 | 1,396 |
25 | ♂ | 湯湾岳 | 湯湾 | 330 |
26 | ♂ | 網野子 | ||
27 | ♂ | 三太郎 | 西仲間 | 162 |
28 | ♀ | 瀬戸内 | ||
29 | ♂ | 瀬戸内 | ||
30 | ♂ | 三太郎 | 西仲間 | 520 |
31 | ♀ | 篠川 | 石良 | 1,191 |
32 | ♂ | 瀬戸内 | ||
33 | ♂ | 湯湾岳 | 石良 | 1,082 |
34 | ♂ | 小湊 | 西仲勝 | 544 |
35 | ♀ | 網野子 | ||
36 | ♂ | 湯湾岳 | 湯湾 | 1,548 |
37 | ♀ | 網野子 | 白浜 | 461 |
38 | ♀ | 網野子 | ||
39 | ♀ | 小湊 | 朝戸 | 63 |
40 | ♂ | 金作原 | 名瀬 | 2,547 |
41 | ♂ | 小湊 | 和瀬 | 642 |
42 | ♀ | 瀬戸内 | 白浜 | – |
43 | ♂ | 瀬戸内 | 白浜 | 549 |
44 | ♂ | 瀬戸内 | ||
45 | ♂ | 山間 | 嘉徳 | – |
46 | ♀ | 瀬戸内 | ||
47 | ♀ | 小湊 | 西仲勝 | 818 |
48 | ♂ | 金作原 | ||
49 | ♀ | 網野子 | 網野子 | 193 |
50 | ♂ | 小湊 | 朝戸 | 186 |
51 | ♂ | 瀬戸内 | 白浜 | 646 |
52 | ♀ | 瀬戸内 | ||
53 | ♀ | 三太郎 | ||
54 | ♂ | 瀬戸内 | ||
55 | ♂ | 小湊 | ||
56 | ♀ | 瀬戸内 | 油井 | 695 |
57 | ♂ | 小湊 | 朝戸 | 243 |
58 | ♂ | 網野子 | ||
59 | ♀ | 金作原 | ||
60 | ♀ | 金作原 | 朝戸 | 1699 |
61 | ♀ | 瀬戸内 | ||
62 | ♂ | 小湊 | 朝戸 | 278 |
63 | ♂ | 三太郎 | 西仲勝 | 536 |
64 | ♀ | 篠川 | 篠川 | 322 |
65 | ♂ | 山間 | ||
66 | ♀ | 三太郎 | 西仲間 | 424 |
67 | ♀ | 山間 | 市 | – |
68 | ♀ | 瀬戸内 | ||
69 | ♀ | 三太郎 | 川内 | 876 |
70 | ♂ | 三太郎 | 西仲間 | 431 |
71 | ♀ | 瀬戸内 | 篠川 | 728 |
72 | ♂ | 金作原 | 朝戸 | 1,764 |
- 昨年度からノネコ流入状況確認のため、捕獲されたTNR個体とTNR事業で集落で確認された個体との照合を行っている
- 2018年7月事業開始~2022年1月までに299個体を捕獲、72個体(24%)がTNR個体
- そのうち照合できたのは現在まで44個体(61%)
- 照合できた44個体のほとんどがTNR実施集落から山域へとつながる作業道路付近での捕獲
- 湯湾岳地域で捕獲された見里集落の個体(No.24)・網野子地域で捕獲された白浜集落の個体(No.37)など直線距離で約10km移動する個体がいる
- 石良集落のように周囲の大部分が山で囲まれた場所は、分散して周囲の山域へ侵入している(No.10、13、20、31、33)
- TNR事業確認日から捕獲までの期間最長はNo.40の2,547日(約7年)、平均で804日(約2年2か月)
- TNR個体の移動傾向がわかりつつある
- 長距離移動個体もわかっているので、TNR事業と連携しなるべく早く捕獲作業地域の全島展開が必要
質問タイム
- ノラネコのTNRは、古仁屋でやってるのと奄美市名瀬でやってる個体は別で数は出ていますか?
-
資料の「発生源対策の進捗状況」は奄美大島ねこ対策協議会で実施している頭数で計算しているため、奄美市の名瀬地区と古仁屋地区は含まれないデータとなります。こちらも町別でデータとして残っています。今後、こちらも連携していくことを検討します。(データ自体はねこ対策協議会の方でまとめがほぼ終わっているとのこと!)
ねこ対策協議会の方でもTNRを3年間していて、徐々に各集落の増減もわかってきたのでそのデータも今後の資料として追加していく予定です。
ろ
ねこ対策協議会でやってるTNRと、奄美市名瀬のTNR、古仁屋のTNRは別!つまり今回の資料はねこ対策協議会提供資料だから奄美市名瀬と古仁屋のTNRのデータは反映されてないってことなんだね。
- 照合率はまずまず高いのではないでしょうか。ただもっと照合率を上げていける可能性があるのなら知りたいです。
-
写真の撮り方はノネコもノラネコも麻酔をかけた時に、側面と上部と顔の写真を撮っています。瀬戸内と古仁屋と名瀬市街地に関しては今まで情報がなかったため照合できてない個体がいます。今後は全ての集落でTNR実施し市街地のデータもそろえばもっと照合率が上がると考えられるので、やり方自体は現在のやり方で続けていきます。
- TNR個体の照合結果を、地図上ですべて重ねて表示していけば猫の移動の動きなどが見やすくなるのではないでしょうか?(TNRした場所と捕獲された場所を地図上で直線で繋ぐ)
-
既にそのように整理しているので、次回以降の宿題にします。
- 飼い猫の完全室内飼養率が高いですが、実際の状況と違うのではないでしょうか?(実際もっと外に出ている飼い猫がいるのでは?)
-
確認方法としては、飼い主さんに「室内飼養していますか?」と聞いた時に「してます」と返答があれば室内飼養しているとしています。もしかしたら中には出している人もいるかもしれませんが、確認時点では室内飼養率は表の通りとなります。
奄美市の場合:奄美市の場合は、猫を飼う時の申請時、室内飼養か屋外飼養か記入していただくことになっています。一方で猫に関する苦情はまだまだ多いので肌感覚としてまだ外で飼っている方もいると考えています。引き続き普及啓発に努めます。
他:データがこうやってとれてきたことで、状況がわかってきたことが大事、良いことかなと思っています。どのように解決していくか考えていける状況になったので、今後も今の成果で進めていきたいと考えています。
- 飼い猫を登録していない方も居ると思いますが、そういった登録していない方の情報は表(発生源対策の進捗状況)に含まれていないという事で良いですか?もし入っていないのであれば、但し書きがあった方が親切ですね。
-
確かに登録している人の割合なので、但し書きについては今後の参考にさせていだきます。
質問以外
- これらデータが出たのは大きな成果
- 完全室内飼養率が上がれば、山にいる猫・外にいる猫が減少して、山に入る猫も減少し、山で繁殖している猫も捕獲するという流れになると良いのでは
- 山に入ってしまう個体をリリースしてしまう問題は意識していく
- 目的をもってデータをとってTNRして、TNR率が高まり山に入っていく猫のデータがとれるようになったことで猫問題は人の猫の飼い方の問題というのもわかってきた
- TNR9割超えてるが、手を抜くとすぐ増えるので意識してデータを使って飼い方の啓発を進めてほしい
- 表はグラフにすると評価しやすいのではないか
- TNR個体の照合結果の表を見ると、TNR事業の方では瀬戸内や網野子が出てこないが、ノネコ事業の方では瀬戸内が多く出てくるので連携をしっかりしていくともっとデータが見えてくるのではないでしょうか。
次回「今後の方針」「その他」へ続く!
奄美大島のノネコ管理計画は、山への流入状況などもしっかりデータをとっているので、奄美以外でも活用できそうだよなこれ……すごいな!と思っています。
猫の移動についても個人的に気になっていたので、今回の検討会で報告があって嬉しかったです。
直線距離で結び11km先のところで捕獲されたTNR個体がいるというのも驚きましたね。
地図上でこの猫の移動距離などパッと見てわかるようになれば、もっと面白いデータになるんじゃないかなって思いました。
データとしては既にあるようなので、それがいつか公開されると良いなあ。
次回で最後になります。
次回は「今後の方針」と「その他」についてなので、奄美大島のノネコ管理計画がどう進んでいくのか知りたい方はまた次回もお付き合いください。
今回もありがとうございました。
ではねー。